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最高裁判所第二小法廷 平成4年(行ツ)10号 判決

兵庫県芦屋市三条町二八番一号

上告人

延原千恵子

右訴訟代理人弁護士

大西佑二

明尾寛

兵庫県芦屋市公光町六番二号

被上告人

芦屋税務署長 吉田進

右指定代理人

下田隆夫

右当事者間の大阪高等裁判所平成三年(行コ)第一所得税更正処分等取消請求事件について、同裁判所が平成三年一〇月三〇日言い渡した判決に対し、上告人から、全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件の上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人大西佑二、同明尾寛の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤島昭 裁判官 中島敏次郎 裁判官 木崎良平 裁判官 大西勝也)

(平成四年(行ツ)第一〇号 上告人 延原千恵子)

上告代理人大西佑二、同明尾寛の上告理由

一、原判決は民法二五二条の解釈適用を誤まり、その違法が判決に影響を及ぼすこと明白であると共に、その理由において明らかな論理的な矛盾がある。

1 民法二五二条本文は「共有物ノ管理ニ関スル事項ハ前条ノ場合ヲ除ク外各共有者ノ持分ノ価格ニ従ヒ其過半数ヲ以テ之ヲ決ス」とあり、右規定は共有物の利用について共有者間で意見を異にし、その帰着を見ない場合に協議の上その持分の価格の過半数で決めることを規定したものと解釈される。

2 ところで上告人を含め、亡観太郎の相続人間でその相続割合につき争いがあり、原審口頭弁論終結当時はもとより、現在においてもその帰着をみない状況である(亡観太郎の相続税の修正申告書においての相続分の申告は相続税の申告をするにつき、暫定的持分を申告したにすぎない)。

そのため訴外延原倉庫は固定資産税を考慮して一方的に増額した賃料を相続人の相続分の割合が定まらないため、債権者不確知を理由に法務局に供託しているのである。

3 ところが、原判決は「共有物の管理行為である本件各物件の賃料増額は過半数の持分を有する控訴人以外の共有者によって有効に成立した」旨認定しているが、訴外延原倉庫が「相続分に争いがあり、債権者を確知できない」ことを理由に供託しており、まさしく本件は共有持分の割合が定まつていないため、共有物の利用につき持分の価格に従い其過半数で以て之を決することが不可能であるのに、原判決が「過半数の持分を有する共有者の合意があった」旨認定するのは論理上矛盾しているとはいわざるをえない。この点、原判決には前記法令の解釈適用の誤りがあると共にその理由に論理的に明白な矛盾があり、破棄を免れない。

二、原判決は国税通則法第一五条、所得税法第二六条の解釈適用を誤まり、その違法が判決に影響を及ぼすこと明白である。

1 原判決は所得税に関して課税対象である収入の原因となる権利が確定する時期は、それぞれの権利の特質を考慮して決定されるべき法律問題であるとし、賃借人がこれを債権者不確知の一場合であるとして賃料の全額を供託しているときは契約または慣習により支払日が定められているものについてはその支払日、それが定められていないときには、その現実に支払を受けた日であると解するのが相当であるとし、本件においては控訴人らの延原倉庫株式会社に対する賃料債権は前年四月一日分から当年三月末日までの分が、支払日である当年三月二五日に所得税の課税対象となるべき収入の原因となる権利として確定したものというべきであると認定している。

2 成程、一般論としては権利の確定する時期についての解釈は右判決の解釈で正しいといえるであろうが、本件のように相続分に争いがあって、その決着がついていない場合、すなわち上告人の延原倉庫に請求しうる賃料債権の債権額が確定していない場合、いわば「権利そのものが未確定」な状態である場合に権利が確定した時期をもって課税するとする前記法条の解釈と矛盾しているといわざるをえない。

三、原判決の次の認定は経験則に違反し、右違反は判決に影響を及ぼすこと明白である。

1 原判決は「課税にあたって、常に、現実に収入があるときはまで課税することができないというのでは、納税者の恣意を許し、課税の公平を期しがたいので、徴税政策上の技術的見地から、収入の原因となる権利の確定した時期をもって課税することにしたものであって、やむを得ないところである」としているが、上告人は現実に収入があるときに課税できるとか、課税しろと主張しているのではなく、原判決は上告人の主張を曲解している。

上告人は相続分についての争いが解決し、共有持分権という権利が確定したときに課税すべきであると再三再四主張しているのである。

上告人の恣意で課税時期を争っているのではない。

2 また原判決は「控訴人は右のような供託が行われている場合には、相続分についての争いが解決に至るまでは、供託金の還付を受ける手段がないと主張するが、後日終局的に遺産分割が成立ときに清算することを留保して、被供託者全員が仮に合意したうえ、還付を受けることは可能である」旨認定している。本件においては仮の合意すら不可能な程、争いが激しいものであって、原審の右認定はおよそ争いの実体を理解しない認定である。

以上

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